ひげっちが好むものごと。

詩歌とボドゲを中心に書きたいことを書きます。

雑誌『五行歌』2019年1月号 お気に入り五行歌

こんにちは。ひげっちです。

五行歌』2019年1月号のお気に入りの五行歌を紹介させていただきます。

1月号は本当に良いお歌が多く、

取り上げたいお歌も多くなってしまいました。

 

 

はげ隠しのボウズですか?
不登校だったガキがいう
そこまでに到達したかと
喜んでやるよ!
図星だし

 

からし
9p.

 

 ぶっきらぼうな物言いが小気味よく、痛快。おそらくは息子さんとのやりとりだと思われるが、憎たらしくも愛おしい、我が子との関係性が伝わってきて、温かい気持ちになった。「不登校」という言葉が特段強調されず、さらりと使われているのにも惹かれた。

 

 

息があるうちは
収集できません
ダンボールの仔猫
二度目の電話で
受け付けられる

 

中島さなぎ
14p.

 

 感傷的にならず、淡々と事実のみを述べた、後ろ二行が秀逸。こういう書き方のほうが、かえって鮮烈な余韻を残せるという見本のよう。作者自身の思い入れや感情が述べられていない点も効果的だと思う。残酷な歌であるが、その残酷さに、読者がものを思ったり考えたりするためのちょうどいい余白がある。同じ光景を見たとしても、なかなかこうは書けない。作者の筆力のなせる技だと思う。

 

役満
テンパれば
タバコに3本
火をつけてた
ちっちぇ~男よ

 

よしだ野々
27p.

 

 麻雀好きとしては見逃せないお歌だった。知らない方のために説明すると、役満とは麻雀の中で一番点数が高くて、一番凄い手役のことです。役満にも色々種類があるので、どんな役満をテンパったのかが気になるところ。「アガった」とは書いてないので、テンパイどまりだったのかな?、テンパイしてからタバコ3本吸う暇があるんだから、割と早い巡目でテンパったのかな?、などと色々妄想が膨らんでしまう。

 

 

十二億年この方
雌雄(めお)未だ分かれざる時への郷愁を
未来に投射して
己が分身との合一を希い
恋う心

 

一歳
35p.

 

 作者の歌を前にすると、いつも自分の不勉強さを恥じたくなるが、書かれている内容から想像するに、十二億年前というのは生物がまだ雌雄同体だった頃なのだろう。その時への郷愁という表現も、三行目の「未来に投射」という表現もいい。恋心を歌った歌で、これほどのスケールのお歌はなかなかお目にかかれない。感服するしかない恋歌。

 

 

支配欲は
すぐ伸びる爪のよう
時折
魔女の手を
見かける

 

水源 純
88p.

 

 「支配欲」と「すぐ伸びる爪」の共通点は、「知らない間に生長している」「伸びすぎると相手を傷付けてしまう」といったところだろうか。想像になってしまうが、四行目の「魔女」という言葉は、爪の伸びすぎた手のビジュアルをイメージして欲しくて使っただけで、支配欲に取り憑かれる可能性について、男女問わずに警鐘を鳴らしているお歌だと考える。もう一つが、作者ご自身のことを念頭に置いて書かれたお歌である可能性だ。爪が伸びているのを一番気付きやすいのは自分自身だが、はてさて。今度作者ご本人にお会いしたときに聞いてみたい。

 

 

待ち合わせは
夫であっても
嬉しい
照れた顔も
新鮮だ

 

水野美智子
88p.

 

 純粋に羨ましい。こういう夫婦関係は素晴らしいと思う。二行目の「夫であっても」が、男性としてはちょっと引っかかる気もする言い方だが、全体から滲み出るラブラブ夫婦っぷりの前では、それも些細なこと。「ごちそうさまでした」と手を合わせたくなるお歌だ。

 

 

手の届く範囲に
愛はなかったから
自由を選んだ
仕方なくとも
人生は続く

 

金沢詩乃
116p.

 

 孤独や寂しさといったシビアな現状認識と、それでも前を向こうとする決意を感じさせるお歌の多い、作者の作風の大ファンであるが、このお歌にも痺れた。自由を選んだ人生であれば、かつては届かなかった愛にも手が届く日が来るかもしれない。もちろんそんな日は来ない可能性だってあるが、かすかな期待を抱くのは勝手だし、その方が心の健康のためにも良いような気がする。少なくとも私は最近そう思うようにしている。

 

 

消しゴムを
さいごまで使い切った
記憶がない
のに
捨てた覚えもない

 

芳川未朋
155p.

 

 言われてみれば確かに、というお歌。私の筆箱には、かれこれ15年くらい前から使っている消しゴムが入っているが、一向に使い切る気配がない。今はそもそもパソコンやスマホが普及して鉛筆やシャーペンで文字を書く機会が減っているせいもあるだろうが、思い返してみれば、学生時代から消しゴムが全部カスになって消えた瞬間というのは、見たことがないように思う。書いててちょっと都市伝説みたいで怖くなってきた。

 

 

薬剤師が
気の毒そうに
小声で薬の説明をする
もっと事務的で
あってくれたほうがいい

 

萌子
176p.

 

 私も持病で月に1度の病院&薬局通いが欠かせない人間だが、昔はもっと無機質な感じがした薬剤師が、数年ぐらい前からやたらあれこれ親身に聞いてくれるようなになった印象がある。「かかりつけ薬剤師」だか何だか知らないが、このお歌のように、人間味を前面に押し出すよりも、薬の効能と副作用等について淡々と説明してくれた方が、その薬剤師のことを頼もしく感じられると思う。

 

 

私はうれしいよ
他人には
言えない
嫌なことを
私にだけは言ってくれて

 

石村比抄子
190p.

 

 話し相手に嫌なこと、ネガティブなことを話されるのは、できれば遠慮したいと常々思っているが、相手が心を許している大切な人間であれば話は別ということだろう。よくよく考えてみれば、私たちは良いことよりも、嫌なことを話すときのほうが慎重に相手を選んでいるのかもしれない。ときに「ここだけの話」などという前置きを付けながら。作者の繊細な感性が光るお歌だと思う。
 

 

にんげんの
ほんとうの
在り方を
ほんきで考えないと
みんなあぶない

 

鳥山晃雄
206p.

 

 「人間の在り方」という大きなテーマについて、真っ向から警鐘を鳴らしている。確かに、現代は子供も大人も高齢者もそれぞれに危うさを抱えている時代だと思う。肌感覚として、テクノロジーの進歩が人間の嫌な面・マイナス面を拡張してしまうことが多く、また、それがよく目に付くようになっているのが、現代という時代のように感じる。このお歌に書かれているように、今一度、人間というものの在り方について想いを巡らせてみるのは、大切なことだと思う。

 

 

うるさーい
たまには自分で考えろー
何でも屋さんかっ
私はお母さんかっ
あ、お母さんじゃん

 

田渕みさこ
212p.

 

 育児のストレスをストレートに吐露していて好感が持てる。五行目のセルフつっこみも効いている。キレるだけでは終わらず、最後にユーモアを交えて終わるところが楽しい。テンポがよく、五行なのに、何となく4コマ漫画のような構成になっているところがいい。

 

 

落ちるスベる上等!
受からないわけがない
落ちたら
学校が見る目がない
謎の自信

 

水源カエデ
264p.

 

 受験シーズンなので、受験生を応援する意味でも、受験生代表として作者のお歌をひかせてもらった。受験生の鑑のようなメンタリティをお持ちの作者には感嘆するしかない。受験は学生にとっては一大イベントなので、ついつい人生の一大事として捉えてしまいがちだが、テストの点数で悪かったからといって、その人の人間性までが否定されるということは断じてない。ほんとうに大切なことは、試験では測れない。そういう大事なことを、作者は既に感覚的に理解している点が頼もしい。

 

 

横に眠る
男を愛した
たしかに
殺したくなる
なぜだろう

 

山本富美子
267p.

 

 ちょっと演歌の『天城越え』を連想した。横に眠る男、とは道ならぬ恋の相手なのだろうか。それとも旦那さんなのだろうか。どちらにせよ、過剰な愛情は殺意に変わるものなのだろうか。そこまでの情念を異性に対して抱いたことのない身としては、ある種のフィクションのように、ドキドキしながら読ませていただいた。

 

 

見えない半分は
求めない
この
半分だけを
丸くしていこう

 

山碧木 星
286p.

 

 味わい深いお歌。人間は誰しもが裏表がある。その裏面ばかりを気にして、「あの人はウラがある」とか言ってしまいがちだ。だが、裏面とは自分の本性であり、そこを矯正しようとすることはなかなかにエネルギーがいるものだし、不自然な行為であるとも言える。それよりも、相手に見える面だけを綺麗に保とうとする作者の姿勢に大いに共感した。「丸くしていこう」という表現もいい。

 

 

淡雪が
あるのなら
淡恋もアルだろう
人に触れる前に
消えてしまうような

 

漂 彦龍
294p.

 

 ばっちり決まっているお歌。相手に気持ちを伝える前に、消えてしまったような儚い恋心を作者もきっとお持ちだったのだろう。「純愛」というほど輪郭がくっきりしてないけど、面と向かって伝えるほどでもない、かすかな相手への好意を確かに私も経験したことがあるように思う。「淡恋」という言葉をぜひ広辞苑に登録して欲しい。