ひげっちが好むものごと。

詩歌とボドゲを中心に書きたいことを書きます。

雑誌『五行歌』2024年3月号 お気に入り五行歌

 こんにちは、ひげっちです。

 

 久々の更新です。更新を休んでいる間に、結婚したり、引っ越ししたり、新型コロナウイルスに感染したり……と色々ありました。シリーズ化していた「お気に入り五行歌」ですが、2024年3月号から、毎月取り上げるお歌を「五首」に限定し、リニューアルして再開することにしました。それでは、私の気に入った五首をご紹介します。

 

醤油
一滴
たらして
しあわせの
ふり
 
小沢 史
65p.
 
 一滴の醤油から無限の妄想が広がってゆくような、大好きなお歌である。幸せは醤油を一滴たらすような日常的/庶民的な行為にこそ宿るものだよ、と伝えたいのかもしれないが、注目すべきは五行目が「ふり」で終わっている点だろう。醤油をたらすことは「幸せそのもの」ではなく、「幸せのふり」なのだ。正確な歌意は読み取れないが、心に残るお歌だった。
 
 
隔てているのは
壁ではなく
いまいましいほどの
レトロな
プライド
 
村岡 遊
67p.
 主語が大胆に省略されているので、こちらも正確に歌意を読み取るのは難しいお歌。だが、三行目の「いまいましいほどの」という表現からは作者が何かに憤っていることは伝わってくる。素直に読めば、男女格差を巡る問題についてのお歌ということになるだろうか。男女間には、夫婦別姓や収入格差、同性婚といった解消されているとは言い難い問題が多くあり、そういった問題について断罪している歌と読むことは可能だ。ただ、この読みはどこか一面的な気がしてならない。他にも、パワハラを巡る上司と部下の問題、いじめにおけるいじめっ子といじめられっ子の問題、人種差別における差別する側とされる側の問題など、様々の場面に当てはめて読むことができるお歌だと思う。こういった広がりをもった読まれ方を意識して、作者はあえて主語を省略したのでは、と想像する。
 
 
今日より明日が
良くなりますように
 
宮島紀子
94p.
 今月号には、2024年元旦に発生した能登半島地震に関するお歌が多数収録されていた。それらの中でも最も心に響いたのがこのお歌だ。「能登よ」のリフレインが効果的で、大きな災害に言葉を失い、ただただ「より良い明日」を希求する心情が胸を打つ。私も「ごいた」という能登の宇出津地区発祥のボードゲームを好んで遊んでいる縁から、能登を訪れた経験もあり、能登半島地震はとても他人事とは思えなかった。今回の災害で被害に遭われた方々に一刻も早く平安な日が訪れることを願う。
 
 
ウィー・アー・ザ・ワールド演奏
黒服の胸ポケットに
青と黄色のハンケチ
さりげなく
 
嵐太
134p.
 吹奏楽やジャズ等のコンサートを見ている光景だろうか。黒服で決めた演奏者の胸元に「青と黄色のハンケチ」が見えたという。言うまでもなく、青と黄色はウクライナの国旗の色であり、演奏者のウクライナへの連帯を表すものだろう。さりげない装いにしっかりと気付く作者の視点がまず素晴らしい。演奏されている曲がアフリカ救済チャリティーソングとして作られた「We Are the World」という点も見逃せない。演奏もきっと心揺さぶられるものだったのではないかと想像する。
 
 
裏の顔
見せて
もらえる
うちが
 
冨樫千佳子
175p.
 今月号で一番「なるほど」と唸らされたお歌だった。性格に裏表があり、人によって見せる顔を変える人はよくいる。「裏の顔」は大抵ネガティブなことや他人の悪口を言ったりする顔であることが多い。そうした話を楽しめる方も、付き合わされるのが嫌という方もいらっしゃるだろう。だが、このお歌はそうした「裏の顔」を見せてくれているうちが「華」なのだと説く。つまり、自分に対して「表の顔」しか見せていない人は、他の誰かに「裏の顔」を見せているわけで、そこでは高確率で自分の悪口が言われている、という理屈だ。少し背筋が寒くなるが、ある種の真実を詠ったお歌だと思う。「周りの人が皆親切で良い人」などと思っていたら、裏では彼らに散々自分の悪口を言われていた……というのもよくある話。
 
 
(了)