ひげっちが好むものごと。

詩歌とボドゲを中心に書きたいことを書きます。

雑誌『五行歌』2020年6月号 お気に入り五行歌

 こんにちは。ひげっちです。

 

 コロナ禍がグズグズと続いていますが、皆さまお変わりないでしょうか?ペースが遅くなっておりますが、雑誌『五行歌』2020年6月号のお気に入り作品をご紹介します。

 

 

 

この時を
見ておけ
この時に
どう生きるか
見ておけ
 
夕月
6p.
 コロナ禍に、家族が、友人が、隣人が、同僚が、政治家が、どう振る舞ったかに刮目せよ、という意味だと受け取った。危機に際して、その人の本性が露わになる、とは昔から言われていること。コロナ禍は確かに大きな困難ではあるが、反面、身近な人達や国政に携わる人達がどういう人間なのかを解らせてくれる側面もあると思う。もちろん、彼らとの分断を生むリスクもあるので、一概に良い面ばかりとは言えないが、とても大切なことに気付かせてくれたお歌だ。
 
 
 
録音をすると
自分が
全部見える
きつい声
自信のない声
 
石川珉珉
16p.
 ごくたまに、自分の声を褒められることがあるが、筆者自身はこの歌と同じように、自分の声や喋り方があまり好きではない。自分に自信の無い捻くれ者なので、「良い声しているね」という褒め言葉も、「他に褒めるところがないから無理して褒めてくれているんだな」くらいにしか受け取れない。そのことをこうして文章に書いていても自分で「何だコイツ、偉そうでイヤな奴だな」と思う。要は、自分を客観的に見ると、粗ばかりに気付いてしまうのだ。そこに大いに共感した。
 
 
 
こんな時こそ
大盛り定食
命の
しぶとさを
噛み締めろ
 
金沢詩乃
60p.
 大好きなお歌。作者ならではの反骨心というか、気概のようなものが滲む後半三行が秀逸。心身ともに疲弊してしまう時代ではあるが、いつの時代も、しぶとく生き残るには食事と睡眠をしっかりとることが基本である。あ、でも筆者はダイエット中なので、ご飯は小盛りでお願いします。
 
 
 
母から
送られて来る
写真のピントが
少しずつずれて来る
寂しさ
 
高原郁子
74p.
 離れて暮らしているのであろう、母親の「老い」を送られてくる写真のピントで知るという、リアルな気付きが歌に説得力を与えている。五行目からは、母親のことを案じながらも、寄り添ってあげられないもどかしさ・悔しさも感じる。確かな余韻の残る良歌だと思う。
 
 
 
現実は
肯定する
出来ないことは
夢にする
私にストレスはない
 
塚田三郎
 一読して、見習いたいと感じたお歌だが、なかなかこの境地には行けない。まず現実を肯定し、対処できないことは夢にカテゴライズするという、この竹を割ったような潔さに惚れ惚れする。ちょっと「夢」という概念を都合良く使いすぎなような気もするが、確かにこういう風に思えたら、ストレスとは無縁だろうな、と羨ましく思う。
 
 
 
国家は
冷淡なのだ
判らせるために
そのウイルスは
やってきた
 
佐藤沙久良湖
165p.
 ウイルスによって国家の冷淡さが浮き彫りになったのではなく、国家の冷淡さを判らせるためにウイルスがやってきたのだという、逆説的な視点が面白い。夕月さんのお歌と同じように、コロナ禍を良い教訓とせよ、というメッセージも感じる。こうした名歌が生まれるのもコロナ禍の一つの副産物。
 
 
 
人間は
何のために
努力するのか
それは結局
怠けたいからだ
 
庄田雄二
187p.
 努力の究極の目的は怠けることだと、このお歌は言う。確かに、現役世代の時に一生懸命働くのは、老後に悠々自適の生活を送るためだったりするだろうから、納得できる部分はある。しかし、どこか反論したくなるというか、「それだけじゃないのでは」という想いが湧いてくるお歌でもある。たとえば努力をするのは、「自身の成長」や「他人・社会への貢献」のため、といった側面もあるかもしれないが、いかにも表面的で嘘っぽい。直感ではあるが、このお歌の方がより真理に近いように感じてしまう。努力とは何か、について考えさせられたお歌。
 
 
 
自分を責めて
満足するな
心を
開いて
包み込め
 
川岸 惠
188p.
 なんだか自分のことを詠われているような気がして、ドキッとしたお歌。「自分のことをこんなに貶めてますよ」「勘違いはしていませんよ」というアピールのような歌ばかり書いている筆者にとっては、刺さる表現だった。自分を責めるというのは、難しいようでいて、実は蜜の味である。自分に責められてしまうような自分自身であるのだから、本来は全然ちゃんとしていないのに、日本人は謙虚な人が好きなので、へりくだって自分のことを悪く言う人を「ちゃんと自覚がある人」みたいに認めてしまう傾向があると思う。後半三行の響きは優しいのに、私には辛辣に響く。こうありたいとは願うものの、中々難しい。
 
 
 
初心は
すべて意義あるとは
限らない
戻りたくない
初心もある
 
三好叙子
190p.
 初心に戻ることの大切さはよく言われるところである。何かを始めたきっかけや目標など、純粋な気持ちを忘れてはいけないということだろうが、人が何かを始める際、必ずしも純粋な気持ちばかりが動機とは限らない。邪な感情や不純な想いが動機になっていることも充分有り得るだろう。この歌の良いところは、動機が何であれ、何かを始めること自体は良いことなんだよ、と肯定してくれている感じがする点だと思う。
 
 
 
雨雲が
ぐんぐん押し寄せてくる
もうすぐ もうすぐ
さあ いまです
泣きます
 
ゆうゆう
194p.
 自分で自分を実況中継しているかのような、不思議で魅力的な文体。雨雲は、不安や泣きたい気持ちの比喩と思って読ませていただいた。泣きたい気持ちが自分ではコントロールできずに押し寄せてきて、泣いてしまう様を詠っているのだが、四、五行目の「ですます調」が、どこか自分を突き放しているような印象を受けるのも相まって、歌全体の独特の味わいを生んでいると思う。
 
 
 
 
(了)

雑誌『五行歌』2020年5月号 お気に入り五行歌

 どうも、ひげっちです。
 
 なんと、前回からたった4日で本誌を一冊読み終え、お気に入りの作品を選ぶことができました。やればできる!
 
 というわけで、雑誌『五行歌』2020年5月号のお気に入り作品をご紹介させていただきます。
 
 
 
 
いろんなことを
にこにこ
こなして
いくのが
おとな
 
永田和美
10p.
 シンプルかつ大事なことを簡潔なことばで書かれている。作者ならではの凄味というか説得力があり、読んでいて「そうだよな、大人ってそういうもんだよな……」と納得させられてしまう。前提として、大人には色々大変なこともあるという、シビアな現状認識があり、それでも辛い顔を見せずに、それらをにこにこしながらこなせ、と主張する。どちらかというと、「そのようにありたい」という理想というよりも、作者は実際そうしてきた、という自負のようなものも感じられるところが好きだ。
 
 
 
 
数学も物理も
解りやすく
教えてくれた兄が
介護はしないと
言い切る
 
ひまわり
33p.
 四、五行目のお兄様の言動について、作者がどう感じたのか、どういう気持ちになったのかが直接書かれていないところが巧み。代わりに、お兄様との思い出が事実として述べられているだけなのだが、これが余白と余韻を生んでおり、お兄様のキャラクターや介護はしないと言ったときの言い方などについて読み手の思いが膨らむような歌の作りになっている。
 
 
 
 
浮かんだ歌は
一首たりとも捨てない
なんて思うからしんどい
歌は思っていれば
また浮かぶ
 
塚田三郎
34p.
 生活していて、ふと浮かんだ歌のアイディアを、メモに取る前に忘れてしまうときがある。そんな時は「逃がした魚は大きい」状態で、忘れてしまったことを後悔しがちであるが、最近は自分の中で「忘れてしまったアイディアは所詮その程度だったということ」と思うようにしている。少し方向性は違うかもしれないが、このお歌も同じようなことを言ってくれている気がして共感した。作者のようにゆったりとした気持ちで歌と向き合いたい。
 
 
 
 
捨て猫を迎え
パパ ママと
呼び合っていた
子を亡くした妹夫婦
おかしいですか
 
つるばみ
41p.
 思わず「何もおかしくはないですよ」と応えたくなるお歌。五行目の呼びかけが効いている。作者は妹さん夫婦のことをどなたかに「おかしい」と言われたのだろうか。私の感覚では、おそらくその人に何の迷惑もかけていないのに、他人の痛みを知らずに簡単に「おかしい」と言ってしまえるその人の方がよっぽど「おかしい」と思う。
 
 
 
 
勘違いから始まる
思い上がる
己惚れる
そして自滅
それさえも気付かない
 
井上澄子
153p.
 五行全てが痛烈。この痛烈さは作者ご自身に向けられたものなのか、あるいは、特定のどなたかに向けられたものなのか。作者に聞いてみないとわからないが、筆者はどこか自分のことを言われているような気がして、ドキッとした。読んでいて同じような感覚に陥った方も多いのではないか。また、何度か読み返すうちに、この勘違いしている主体は割と幸せなんじゃないかと思えてきた。「自滅」とあるからには、もしかすると周囲に何らかの迷惑をかけているのかもしれないが、本人はその事にも気付いていないのである。鈍感、無神経も極まるとハッピーなのかもしれない。
 
 
 
 
切実な
理由のない人ほど
もて遊ぶように
死の
話をする
 
種村悦子
168p.
 「種村悦子 遺作集」より。生前の交流は無かったが、遺作集のお歌は目を見張るものが多かった。一度で良いから生前にお目にかかってみたかった。本作は生と死について、人一倍向き合ってきた方でないと書けない類いのお歌だと思う。筆者も生と死をテーマにして歌を書くことがあるが、そこに切実な理由があるかと問われると、怪しいものだ。生死をテーマにするなら、本当に死と向き合っている人に失礼に当たらないような作品を書かなくてはいけない。良い戒めをいただいたお歌。
 
 
 
 
諦めなさい
わたしの想いは
もう
君の中に溶け込んで
君を励まし続ける
 
伊東柚月
182p.
 これは愛の歌である。しかもとびきり濃い愛の歌だ。お子さんに向けた歌だと解釈した。なんと言っても、一行目がインパクト大。お子さん本人がどう思おうが、どこへ行こうが、そんなことは関係ない。作者の想いはもう、お子さんと一体になり、お子さんを勇気付けるのだ。これほど重い愛の歌があろうか。ものすごく伝わるものがある一方、お子さんサイドからするとちょっと重いのでは……と邪推してしまった。あ、歌としては大好きです。念のため。
 
 
 
 
どちらともなく
こころ離れ
どちらとも寂しい
でも
まだ ふたりでいる
 
村松清美
184p.
 
 夫婦関係のお歌だと解釈した。温度を感じない反面、ある意味で強固な結び付きを感じる、不思議な関係を詠われていて惹かれた。五行目の「まだ」は希望か、妥協か。色々な読み方ができるお歌だと思う。
 
 
 
 
心の底から
笑っている
君の肖像画
僕の胸には
飾ってあるよ
 
渡良瀬流馬
202p.
 「渡良瀬流馬 遺作集」より。作者とは生前何度か歌会でご一緒させていただいた。当時五行歌を始めたばかりの筆者に、気さくに声をかけてくださり、筆者の歌にも嬉しいコメントを寄せていただいたことをよく覚えている。それだけに、突然の訃報には驚いた。どちらかと言えばシニカルなお歌が多いイメージであったが、このお歌が特に好きだ。筆者は、作者のことをとびっきりのロマンチストであったと思っている。理想が高い分、自分に向ける視線もまた厳しくならざるを得ない。故に周囲からは自虐的、皮肉屋のようなイメージを持たれていたのではないか。このお歌のような作品をもっと読みたかった。早すぎる逝去が残念でならない。
 
 
 
 
「家に帰って
家にいなさい!」
家のあることが
大きな幸運なのだと
知る人は少ない
 
佐藤沙久良湖
211p.
 一、二行目はコロナ禍での自粛要請、いわゆる「ステイホーム」についての表現であろうが、家にいたくても、そもそも帰る家も無い方々もいるのだということを思い起こさせてくれる後半が秀逸。作者は東日本大震災を経験している方でもあるので、もしかすると実際に被災して帰る家が無い思いをされたのかもしれない。当たり前と思っているものの価値を再認識させてくれた。
 
 
 
 
膝に
猫が乗った者は
全てのことが
免除される
よく知られたことだ
 
中山まさこ
217p.
 筆者は猫を飼ったことはないが、作者の家にはきっと猫がいるのだろう。膝に猫が乗った者は、「全てのこと」が免除されるのだと言う。「全てのこと」とは、食事の後片付け、宿題、お風呂掃除、などだろうか。とにかく、猫の平穏が何よりも優先される。この家では「猫ちゃんファースト」なのだ。しかも、それがさも当然だと言わんばかりの五行目が面白い。微笑ましいご家庭の様子が伝わるお歌。
 
 
 
 
思うさま
翼を広げて
よいはずだ
私が飛べる
空もある
 
上田貴子
226p.
 とても気持ちの良い読後感で惹かれた。文体から、どこか遠慮がちで自分を表現することに躊躇いがあるような作者の性格が伝わり、それでも勇気を持って一歩を踏み出そうとしているその瞬間を切り取ったよう。平易な言葉で書かれているが、それなのに、こんなまっさらで清々しい心象風景を表現ができているところが素晴らしい。好きなお歌だ。
 
 
 
 
今度生まれてくるときは
お酒が呑めて
大恋愛を二つぐらいして
駅ピアノが弾けて……
眠れない夜のひとり遊び
 
酒井典子
251-252p.
 生まれ変わった自分に求めるスペックが面白い。お金持ちや権力者になりたいとかではなく、何とも具体的で小粋なスペックの列挙。お酒が呑めないのは体質的なものなので、仕方がないとしても、大恋愛×2と駅ピアノは今からでも何とかなるのでは?と、筆者は無責任なことを思ってしまった。
 
 
 
 
用もないのに入った
薬局で行列
カラの商品棚の脇で
五輪チケットの懸賞ハガキが
虚しく揺れる
 
266p.
 コロナ禍を独特の視線で切り取っていて惹かれた。マスク、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、消毒用アルコール、イソジンうがい薬など、様々なものが品切れになった2020年。平常時であれば、商品棚は満杯で、五輪の懸賞ハガキはあっという間になくなっていたのかもしれない、と思うとまた味わい深い。
 
 
 
 
 
(了)
 

雑誌『五行歌』2020年4月号 お気に入り五行歌

 どうも、ひげっちです。
 
 もうすぐ一年遅れになってしまいそうですが、雑誌『五行歌』2020年4月号のお気に入り五行歌をご紹介させていただきます。
 
 
 
詩は
ずっと
嗅いでいたい
香りの
類い
 
いわさきくらげ
25p.
 喩えが美しく、この歌自体の調べも読む者をうっとりとさせるような美しさを持っている。筆者も詩を愛する気持ちはあるものの、どちらかというと詩はもっと生々しい下世話なものと考えている節があるため、この作者のような品の良い喩えは新鮮だった。作者の感性が光る名作。
 
 
重篤の枕辺
妹と私に
微笑みながら
父は
母だけを見ていた
 
秋山果南
36p.
 お父様の容態が悪化し、駆けつけた家族を前に、子供達には微笑みかけるものの、お父様が見ていたのはお母様だけであったという。同じ家族でも、親子でも、立ち入ることの出来ないご両親の絆が感じられる。このことを実感として感じ取られた感覚の鋭さに脱帽する。ご両親の結び付きの絶対性とともに、少しの寂しさも感じられ、味わい深いお歌になっている。
 
 
命綱
ブツブツと
切れていく
命綱なしでいく
勇気を
 
井椎しづく
49p.
 近しい家族を亡くされていることを詠ったお歌だと推察した。四、五行目が好きだ。亡くなられた方々に断ち切りがたい想いを抱えつつ、それでも何とか前を向こうとされているのが伝わる。勇気は自分の内側から湧き上がってくるものなのか、それとも誰かから与えてもらうものなのかはわからないが、どうか作者が力強い日々を歩まれることを願う。
 
 
傷つく言葉を言った
最初は気にしてなかったが
時間がたつにつれて
もうしわけなくなった
ごめん
 
明光小六年(当時) 高田直輝
93p.
 
 「第18回こどもたちの五行歌」より。自らが相手を傷付ける言葉を発したことを自覚し、それを後悔して、最後はちゃんと相手に謝っているのが立派だと思う。悪いことをした、と気付くまでに時間がかかったというのもリアルで良い。自分の胸の内としっかり向き合って作歌していることが伝わる。とても好きなお歌だ。
 
 
俺の名前は
中二病の助
我が左目の
この眼帯を外すと
左側がよく見える
 
MOBU
118p.
 今月いちばん声に出して笑ったお歌。「中二病」のことを知らない方向けに解説をすると、中二病とは中学校2年生くらいの時期に陥りやすいと言われている、漫画やアニメのような空想の世界にどっぷり嵌まっている状態のことを揶揄する言葉。自分の腕から必殺ビームが出たり、目の眼帯を外すと闇の能力が発動したりする妄想を抱いたりする。このお歌では、自分で「中二病の助」と仰々しく名乗っておきながら、眼帯を外したら視野が広くなるという、当たり前のことを詠っているのが、肩すかしのような味わいがあって面白い。
 
 
究極
男子は
女子に叱られたいのだ
おんなじ
悪さばかりする
 
芳川未朋
144p.
 歌意にものすごく同意する。女子に「男子ってほんとにしょうもない」と思われながらも、性懲りもなくおんなじ悪さをくり返す。男子とはそういうもの。そこに思い至った作者の視点がすてきだ。物事の本質を見抜く目をお持ちだと思う。
 
 
みんな
理由(わけ)ありなのだ
さらす
勇気を持つ者のみが
歌を書く
 
村岡 遊
146p.
 こちらも大いに共感したお歌。歌詠みにはみんなそれぞれ事情がある。自分の境遇や困難と向き合ってそれを歌としてさらすには確かに勇気が必要だ。筆者は勇気を持って歌を書くというよりは、自分の中にあるものを書かずにいられない性質なので、ある種、「すいません、こんなんで……」というような、自虐的な姿勢で作歌をしているが、このお歌に「もっと堂々としなさい」という励ましをいただいたような気分だ。
 
 
明日も元気に
行けますように
祈る気持ちで
玄関の革靴の
向きを直す
 
紫かたばみ
158p.
 作者は、筆者の母である。よって、これは、筆者に向けられた歌である、と断言できる。筆者はいい歳をして、朝起床したときの気分で、簡単に仕事を休んでしまうような人間であるため、作者はこのような気持ちを抱いているのだろう。これを書いている今も筆者は体調を崩して1ヶ月の長期休暇を取っているところだ。心配ばかりをかけている両親には本当に申し訳なく思っている。このままではいけない、と強く思わされた歌。
 
 
箱庭を
蒐める
かなしみを盛りつけるための
それは詩、と
呼ばれた
 
甘雨
216p.
 詩が「かなしみを盛りつけるための箱庭」であるという表現が面白く、また、四、五行目の古い言い伝えのような言い回しも魅力的で惹かれた。「かなしみ」がひらがな表記なのがポイントではないかと思う。これが「悲しみ」や「哀しみ」だったら、もっとイメージが限定されてしまうが、「かなしみ」は時に「愛しみ」という漢字もあてられる。細部まで神経の行き届いた名歌だ。
 
 
訃報の連絡に
誹謗中傷した奴らの
手のひら返したような
称賛の声が
勝ち鬨に聞こえる
 
良元
220p.
 この歌は、かなりセンシティブなことを詠っているお歌であり、五行歌界の外にいる方々にはうまく意味が取りづらいお歌でもあると思う。取り上げるべきかどうかかなり悩んだが、筆者も少なからず同じようなことを感じたので、勇気を持ってこのお歌を発表してくださった作者に敬意を表したい。
 
 
抱えきれなくとも
消化できなくとも
黒い秘密は
そこに吐いちゃ
だめ
 
稲本 英
226p.
 「黒い秘密」と「そこ」が何を表すかで解釈が変わってきそうだが、筆者は、職場の人間関係の愚痴や悪口を、SNSなどのネット上に書いてしまう行為のことを指しているように感じた。SNS等はその性質上、どこで誰が見ているかわからないものだ。本人は穴を掘ってそこに愚痴を叫んでいる行為のように考えていても、現実では拡散されて、見られては困る人の目に届く可能性もある。作者は、実際にそのような光景を目にしてしまったのかもしれない。戒めとしたいお歌だ。
 
 
えらんだのか
えらばれたのか
どちらに
しても
今がある
 
京子
344p.
 ご夫婦の馴れ初めのお歌だと解釈した。どちらが先にアプローチされたのか、今となっては定かではないものの、そんなことはたいした問題ではなく、確かな「今」があることが重要だという。とても大切なことを詠われているお歌だと感じる。きっかけがどうこうよりも、今一緒にいることが大切。ずっと覚えていたくなるようなお歌だ。
 
 
(了)

【告知】歌集『宇宙人観察日記』オンライン鑑賞会を開催します【参加者募集!】

 どうも、ひげっちです。

 

 2月21日(日)に、山崎 光氏第一歌集『宇宙人観察日記』のオンライン鑑賞会を開催します!

 

 

五行歌集 宇宙人観察日記 (そらまめ文庫)

五行歌集 宇宙人観察日記 (そらまめ文庫)

  • 作者:山崎 光
  • 発売日: 2020/12/09
  • メディア: 新書
 

 

 

 昨年12月に刊行された山崎 光さんの歌集がとても良かったので、この歌集について語り合う場が欲しいと思い、企画させていただきます。本来は顔と顔を合わせての催しにしたいところですが、ご時世柄、Zoomを用いたオンラインでの開催とさせていただきます。

 

 当日はゲストとして山崎 光さん本人にもご参加いただきます。多くの方にご参加いただければ幸いです。

 

参加要件

  • 歌集『宇宙人観察日記』をお手元にお持ちの方。
  • 開催時間にビデオ会議ソフト・Zoom(ズーム)をインストールしたPC・タブレットスマホ等を利用できる環境にある方。

※Zoomについて
https://zoom.us/jp-jp/meetings.html
※Zoomは参加者の皆さんに自分の顔が見えるビデオ通話と、音声のみの通話が選べます。どちらを選ぶかは任意とします。
※参加者の皆さんへは当日10分前くらいにミーティングに接続するためのリンクを、メールにてお送りさせていただきます。

 

開催要項

日時:2021年2月21日(日)14時〜17時(予定)
準備:開催時間になりましたら、Zoomに接続してお待ちください。
参加費:無料
定員:10名(先着)
申込み方法:メール(hidgepaso0713@gmail.com) まで、参加希望の旨と、

①Zoomの表示名(ふりがな)
②歌集『宇宙人観察日記』に収録されている五行歌のうち、お好きな3首をお選びいただき、各作品の収録ページと1行目の文

を記載して、2月19日(金)までにご連絡ください。

お送りいただいた作品は、プリントにまとめて、前日中にメールにてお送り致します。また、当日Zoomの共有機能を通じて、参加者の皆さんとプリントを共有し、お歌の感想を言い合いたいと思います。

 

以上、よろしくお願いいたします!

ROTH BART BARONについて

どうも、ひげっちです。

 

今日は、最近ドはまりしているアーティストである、ROTH BART BARON(ロットバルトバロン)について紹介したいと思います。

 

www.rothbartbaron.com

 

ホームページによると、ROTH BART BARON(以下、RBB)は

  • 2008年に結成された日本のインディーフォークバンド
  • 海外レコーディングを積極的に行っている
  • 日本のみならず世界各国でライブ活動も行ってきた

という、インディーながらワールドワイドに活躍しているバンドであることがわかります。

 

まずは、私が今のところRBBで一番好きな最新作『極彩色の祝祭』から、「極彩|IGL(S)」という曲を昨年末に行われたライブバージョンでご覧ください。

 


極彩|IGL(S) - ROTH BART BARON live at Persimmon Hall 2020.12.27

 

 RBBは本当に多彩な魅力があるバンドだと思いますが、その一つは印象的で美しいメロディーでしょう。ヴォーカルと作詞作曲を担当する三船雅也さんは、耳馴染みが良いのに何度も聴きたくなるような、不思議な力を持ったメロディーを作る方だと思います。

 

 また、高音域を多用する三船さんの中性的な声と歌唱も魅力です。さらに、バンドマンと言うより、「音楽家」と呼ぶのが相応しいような、三船さんの佇まいも華があってカッコいいなあ、と憧れます。

 

 そして、歌詞、これがまた良い。三船さんはかなり色々な音楽を聴いてきている、音楽IQの高い方とお見受けしていて、そういった方はとかく難解な詞を書いたり、英語詞にしたりしがちだと思うのですが、三船さんは違います。シンプルな誰にでも解る言葉を使い、ストレートなメッセージを伝える曲が多いです。

 

 前述の「極彩|IGL(S)」という曲の歌詞はこんな感じです。

 

君の物語を 絶やすな 絶やすな
君の物語を 絶やすな 絶やすな

 

誰かが作った幸せに 逃げるな 逃げるな
これから目にすることを 恐れるな 恐れるな

 

祝祭が見たいんだ 極彩色の心で

 

極彩|IGL(S)/ROTH BART BARON

 

 この曲を初めて聴いたのは去年の秋のことだと記憶していますが、コロナ自粛疲れでカッサカサだった心にこの歌詞はめちゃくちゃ沁みました。この時代に、聴き手に「君の物語を絶やすな」と歌う三船さんはとても熱い心を持つと同時に、とても誠実な方だと思います。自分のしたいこと、やるべきこと、そしてあるいは命そのものが危機にあると言ってもいい昨今、このメッセージはより多くの人に聴かれるべきだと感じました。

 

 RBBは、とても意欲的にSNSYouTubeクラウドファンディングなどを活用しており、公式チャンネルでYouTubeにライブ丸々一本の動画が上がっていたりします。ドはまりしている私でもさすがに全部は見られていない分量です。

 


ROTH BART BARON "HEX" TOUR | FULL SET | Dec 9th 2018 (Japan)

 

 

 サブスクのおかげで、旧譜も聴くことが出来ていますが、前作『けものたちの名前』も相当の名盤でした。リード曲の「けもののなまえ」もゲストヴォーカルのHANAさんと三船さんの掛け合いが光る名曲なので、ぜひご一聴を。

 


けもののなまえ feat. HANA|ROTH BART BARON - studio session -

 

 ここまでライブ映像をご覧になった方には分かると思いますが、RBBはかなりの大所帯バンドです。ただ、大半はサポートメンバーであり、結成時からのメンバーは三船さんとドラムの中原鉄也さんの2名だけです。しかも、この前作『けものたちの名前』を最後に、中原さんもバンドを脱退されています。実質、現在のRBBは三船さんのソロプロジェクトの色合いが強いものとなっていますが、それでも数多くのライブやレコーティングを通して、サポートメンバーと三船さんとの繋がりは強固になってきていると感じます。そんなバンドの調子の良さが伝わる動画を最後に貼っておきます。

 


Innocence at 新代田 FEVER | 2020.7.11 by ABANK

 

 新しい時代の音を鳴らす野心と意欲を持ったバンド、ROTH BART BARONをこれからも応援してゆきたいです!

 

 

(了)

新年のご挨拶(2021年)

あけましておめでとうございます。

ひげっちです。

 

旧年中はブログをご覧いただきありがとうございました。

2021年は去年よりもう少し更新頻度を上げていきたいです。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

TwitterFacebookに投稿した、去年の自選5首をアップしておきます。

五行歌と短歌でそれぞれA面とB面の10首ずつあります)

 

f:id:hidgepaso0713:20210102121600j:plain

2020年自選5首(五行歌

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2020年自選5首B面(五行歌

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2020年自選5首(短歌)

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2020年自選5首B面(短歌)

 

2020年自分的ベストコンテンツ

どうも、ひげっちです。

 

2020年もあとちょっとなので、

毎年恒例の自分的ベストコンテンツを書き記しておきます。

 

音楽・曲

トーチ/折坂悠太


折坂悠太 - トーチ (Official Music Video) / Yuta Orisaka - Torch

 新型コロナウイルス禍とは切っては切れない一年となった2020年のムードにどんぴしゃだった一曲。この曲はbutajiさんというシンガーソングライターとの共作であり、歌詞は2019年秋の台風19号被害から着想を得て書かれたものであるという。決して落ち込んだ気分を明るく元気づけてくれるような単純な歌ではないが、butajiさん独特の中毒性のあるメロディーラインと、折坂さんの書く温かみのある歌詞が相まって、とにかくこの曲に惚れ込んでしまい、一年を通して何度もリピートして聴いていた。カラオケでもよく歌った。

 

音楽・アルバム

極彩色の祝祭/ROTH BART BARON

極彩色の祝祭

極彩色の祝祭

  • アーティスト:ROTH BART BARON
  • 発売日: 2020/10/28
  • メディア: CD
 

  今年発見したアーティストで一番ハマったROTH BART BARON(ロットバルトバロン)の最新作。バンド名は知っている、くらいのスタンスでいたバンドだが、音楽評論家の柴 那典さんのツイートでこのアルバムのことを知り、聴いてみたのがきっかけでいっぺんに好きになってしまった。

 サブスクのおかげで旧譜もすべて聴くことができたが、2019年発表の前作『けものたちの名前』で、「もしもここを生き残れたら/僕の本当の名前をあげよう」(けもののなまえ)や「さよならまたいつか/会えるその時まで/いくつもドアをあけて/僕らまた出会おう」(春の嵐)といった、すでにコロナ禍を予言しているような歌詞があるのも興味深い。

 コロナ禍のもとで制作された本作は、明確にアフターコロナの時代に聴かれることを意識して作られている。「破壊された日常の向こう側」の道標となるような力強い作品だ。メロディーの美しさも特筆すべきだと思うが、詩歌を嗜んでいる身としては、やはり歌詞が気になった。三船雅也さんの書く歌詞は、何というか、嫉妬と羨望を禁じ得ない。「もし自分がロックバンドを組んでいたら、こういう歌詞を書きたいな」と思わされるような歌詞を実際に書いてらっしゃるからだ。ストレートなメッセージが響く歌もあれば、寓話的で空想を掻き立てる歌もある。そのどちらも、誠に勝手ながら、実に「波長が合う」感じがする。こういうバンドと同じ時代に生きることができて幸せだと思う。

 リリース直後から何度も聴き直しているが、聴く度に新しい発見があり、飽きない。ものすごく細部までこだわって作られているのが伝わってくるし、アルバム全体を通した一つの作品としてのまとまりが良い。アルバムを作るのに必要だったであろう、緻密な計算と、膨大なエネルギーと、表現者としての執念の凄まじさみたいなものも感じられ、軽く畏怖の念を覚えるほどだ。ぜひ未聴の方は体験して欲しい。

 

映画

パラサイト 半地下の家族/ポン・ジュノ監督

www.parasite-mv.jp

 コロナ禍のせいで映画館へ行く回数も減ってしまったので、今年は母数となる映画鑑賞作品の数が少ないが、その中で一本を選ぶとしたら、アカデミー賞作品賞にも輝いた本作だろう。元々、ポン・ジュノ監督は『殺人の追憶』ですごい!と思っていたが、本作はそれの数倍のインパクトがあった。

 現代社会への風刺を盛り込みつつ、先の読めないストーリー展開で、ジェットコースターに乗っているかのような視聴体験ができる。ある意味インド映画的な盛りだくさんな要素もあるが、物語の質感はやはり東アジア特有の湿っぽさがある。視聴者が何かを感じるまで、とにかくやれることを全部やったかのような脚本は、称賛に値すると思う。

 

来年もたくさんの大好きなものと出会えますように!

 

(了)