貝澤駿一さん第一歌集『ダニー・ボーイ』を読んで
「目を逸らさない」という胆力
再生数競う動画に爆撃の首都と歌い手ならべられおり「サーチライト」 133p.僕の脚に「駿」という字は書かれない空爆に逃げなくてもいい 今は「脚」 150p.〈特定少年〉になりうる二十六人のひとりひとりに渡す成績表「少年」 158p.ガザに雨が降らないことを、慈雨という言葉がうまく訳せないことを「慈雨」 161p.
美学と思慮深さ
戦うことを恐れてしまう夏の空その情けなさに救われながら「白球残影」 122p.鉄の匂いこびりつきたりさかあがりできぬくやしさこみ上げる手に「サーチライト」 132p.
固有名詞の使い方
夏の終わりに恐ろしき誓いありキューピーマヨネーズのふたの赤結果より過程が大事 「カルピス」と「冷めてしまったホットカルピス」大谷にがんばれを言うカロリーで俺ががんばるべきだと気づく富尾大地
ヤングシンバに本気で憧れていたことも話すよこんな夏の終わりに「ヤングシンバ」 93p.十字架を破壊されたるディラン・クレボルトの墓に苔は生えない「インビジブル」 95p.
雑誌『五行歌』2025年3月号 お気に入り五行歌
どうも、ひげっちです。
3、4月のバタバタと忙しくしていました。なかなか本誌をゆっくり読む時間が無く、5月の連休に突入してしまいました。
それでは、2025年3月号から、私の気に入った五首をご紹介します。
核戦争
黒い傘の
ワンタッチで
開く
音
福島吉郎
10p.
一行目とそれに続く四行との取り合わせが見事。破滅はもうすぐそこまで来ていて、それこそ傘を開くためのボタンを押すくらいの弾みで崩れてしまいそうな、危ういバランスの上に我々は生活しているのだと感じる。2025年現在のこの世界を取り巻く不穏なムードをたった五行で的確に表現されている。
お正月も施設から
帰れない友は
折り紙の
カエルを
沢山折っている
井戸喜美代
140p.
お正月も施設で過ごすことを余儀なくされているご友人が折り紙で折っているのが「カエル」であるという。おそらくこの行為は「カエル」と「帰る」という言葉をかけて、ご友人の「帰りたい」という気持ちの表明なのだろう。しかもその「カエル」を「沢山折っている」というところに意思の強さが滲む。帰りたくて泣いたり怒ったりするような短絡的な感情表現ではなく、黙々と折り紙を折っているという行為が、静かな意思表示のように感じられて好みだった。
通夜の帰りに
お清めの塩を忘れる
でも
あの人の霊なら
いいや
加藤温子
221p.
故人への信頼感や心の距離の近さを感じる。故人の霊に取り憑かれることさえも許容している。むしろ亡くなってからも霊としてでもいいから、そばにいてほしいというような気持なのだろうか。もし自分が亡くなったときに、こんなことを考えてくれる人が一人でも居たなら、どんなに幸せな人生だろう。あたたかい気持ちになるお歌だった。
豊穣を得て
また紡ぐ
私たちの
創造が
終わりないものでありますよう
水源 純
227p.
特集『満開の一木』より。色々な捉え方ができるお歌であると思うが、誤読をおそれずに評をするなら、このお歌は五行歌のことを詠まれたお歌であると考えたい。一行目の「豊穣」とは、豊かな自然や人々の心の豊穣さのこと、つまりは作歌の種のことであるように感じられた。三、四行目の「私たちの創造」はまさしく五行歌を創る行為のこと、そして五行目はそれが「終わりのないもの」であることを祈っている。五行歌にまつわる営みが今後もずっと続いて欲しいという希求が胸を打つ。
拡充
より
縮充
ゆったりと
熟す刻
山本清徳
228p.
特集『八十路の歩み』より。平易で簡潔な言葉で紡がれ、作者の穏やかな心情が伝わる特集だった。特に好みだったのがこのお歌。三行目「縮充」とは、まちづくりの用語で「人口や税収が減少しても、地域社会の活性化や住民の生活を充実させること」を指すという。それを受けての四、五行目の表現が秀逸。人口減少というと、とかく危機感やデメリットばかりが強調されることが多いが、このお歌のような受け止め方ができたらいいな、と思わされた。
(了)
雑誌『五行歌』2025年2月号 お気に入り五行歌
どうも、ひげっちです。
2月中の更新が間に合わず、3月も半ばになってしまいました。というのも『ベルサイユのばら』の映画を観に行ってハマってしまい、ここ1ヶ月半くらい暇な時間はずっと『ベルばら』の漫画を読んでいたのでした。先日無事に読了しました。とんでもない名作でした!
それでは、2025年2月号から、私の気に入った五首をご紹介します。
二階に来たが
何しに来たか
忘れてしまった
何しに来たんだろ
この世に
鮫島龍三郎
10p.
何かの用事があって二階に来たのに、来たとたんに肝心の用事を忘れてしまったという。ここまでならよくある話だが、後半二行で話は一気にスケールアップし、作者はご自分がこの世に生まれてきた意味を問い掛けている。油断して前半を読んでいると、後半で一気に大きくて遠い所へ連れて行かれる、この構成が見事。現世にうまく馴染めていない感覚や無力感、ペーソスのようなものも滲み出ていて味わい深い。
妹と二人で
亡き母の和箪笥から
和服を全部出し
思い出話に花を咲かせ
そのまま元に戻す
白河つばさ
44p.
姉妹で亡きお母様の和服を箪笥から引っ張り出し、形見分けや断捨離が始まるのかな、と思いきや思い出話だけして、「そのまま元に戻す」という。きっと和服はお母様を思い出すためのアイテムなのだろう。その一枚一枚に色々な思い出があるのだと想像した。大事な思い出が詰まった和服を簡単に処分できるはずもない。一読した時には少し意外だった五行目が、とてもあたたかい行為に思える。
散歩のポケットには
ホカロンみたいな
手紙
友から
届いたばかりの
神谷叡子
163p.
散歩先のどこかのタイミングで友からの手紙を読もうとしたのだろうか。届いたばかりのその手紙をポケットに忍ばせているという。それだけで既にあたたかい光景なのだが、二、三行目の「ホカロンみたいな/手紙」という比喩が秀逸。冷えた身体をあたためてくれるような手紙の内容、あるいは友のお人柄なのだろう。心のこもった手紙をやりとりするお相手がいるのを羨ましく感じた。
言葉と
お相撲しながら
生き抜いた人でした
享年92才
谷川俊太郎さん
恵遊
172p.
国民的な詩人というべき谷川俊太郎さんが昨年11月に亡くなられ、その死を悼む歌を2月号には何首か見かけた。このお歌は何といっても 「言葉と/お相撲しながら」という比喩の素晴らしさに尽きると思う。時には言葉に寄り切られたり、時には言葉を投げ飛ばしたり、個人の詩作のことをそんな風にイメージされたのだと推察する。相撲は裸一貫で相手に立ち向かってゆく、ごまかしの効かない格闘技である。自分も言葉に立ち向かうときは、同じように相撲を取る感覚で臨みたいと思わされるお歌だった。
大して
寒くない
クリスマス
白い息も
出ない
中澤麻祐子
246p.
12月後半にも関わらずあまり寒くない去年のクリスマスだったのだろう。イメージ通りではなかったクリスマスにどことなく落胆している感じが伝わってくる。二行目「寒くない」、五行目「出ない」と否定形の文が続いていることからも、クリスマスを楽しみ切れていない印象を受ける。クリスマスに浮かれたりはしゃいだりするのではなく、淡々と詠っているところにリアリティを感じるお歌だった。
(了)
雑誌『五行歌』2025年1月号 お気に入り五行歌
どうもひげっちです。
一月も残り僅かですが、本年もどうぞよろしくお願いします。関東新年合同歌会でご一緒した方々、ありがとうございました。関西新年合同歌会が今週末のようですね。
それでは、2025年1月号から、私の気に入った五首をご紹介します。
禅の教えは
こだわらないこと
落とし穴は
こだわらないことに
こだわること
リプル
16p.
禅については門外漢だが、おそらく禅の教えでは物事への行き過ぎた執着を戒めているのだろう。その一方で、決して物事に執着すること自体を否定しているわけではないのだと想像する。後半二行の表現が面白く、「こだわらないことにこだわらない」ためには一体どうすればいいのだろう、と途方に暮れてしまいそうだ。このお歌自体が禅問答のような趣きを感じさせ、味わい深いと感じた。
それ程
長生きもしたくないのに
何気に
濃い方の人参ジュースを
選ぶ自分がいる
長谷川明美
114p.
非常にリアリティを感じさせるお歌の内容だった。普段から特別に長寿や健康に拘りがあるわけではなくても、人参ジュースの濃さによる違いがあり、「濃い方が健康効果が高い」などと謳ってあると、ついついそちらを選んでしまう……ということなのだろう。三行目に「何気に」とある通り、これは大袈裟に言えば生存本能のようなもので、無意識にそういった選択をしてしまうように、我々がプログラムされているのかもしれない。そんなことを考えさせられた。
写真展示の
来場者投票
全員自分以外に
入れてくれる
自慢の友達
水源カエデ
121p.
写真展示に招待した複数の友達が、来場者投票で全員作者以外の写真に投票したということだろう。ざっくばらんでサバサバした関係性が感じられて微笑ましくなる。また、友達それぞれが気を遣ったり、忖度をしたりせずに自分の審美眼に基づいてお気に入りの写真に投票をしたという点も見逃せない。作者も五行目で「自慢の友達」と表現している通り、本当に仲が良く、気持ちの良い友達だということが想像できる。
椅子にちょこんと正座する
丸くなった母の背
もう少し
優しくしよう
後ろ姿にはそう思う
往く春のみどり
252p.
椅子に正座したお母様を後ろから見ている作者。その後ろ姿から何かを感じられて、お母様への接し方を優しくしようと思われている。このお歌で一番惹かれたのは五行目の「には」だ。この「には」により、前述の「優しくしよう」という決心はあくまで「お母様の後ろ姿を見た時のもの」に限定されている。逆説的に言えば、普段のお母様との関わりの中ではなかなか優しくあろうという感情が抱けないということだろう。自分に嘘を吐いていない、とても正直なお歌だと感じた。
抱えたもの
それぞれに
明るく集う
歌会の
けなげさを思う
高市範子
283p.
歌会にある程度の期間参加し続けている方なら、大いに共感を覚えるのではないだろうか。参加者それぞれが、色々な困難や悩みを抱えながらも、何とか予定を調整し、同じ時間と場所を共有する。齢を重ねるに連れて、歌会という場のかけがえのなさというものを実感している。三行目の「明るく集う」という表現が大好きだ。五行歌の歌会はやさしくて、明るい。歌会という営みが、これからもずっと日本各地で続いてゆくことを願う。
(了)
雑誌『五行歌』2024年12月号 お気に入り五行歌
どうもひげっちです。
すっかり寒くなり、今年も残すところあと僅かとなりました。
今年一年、五行歌の皆様には本当にお世話になりました。
おかげさまで楽しく充実した一年となりました。
どうぞよいお年をお迎えください。
それでは、2024年12月号から、私の気に入った五首をご紹介します。
窓という窓を
閉ざすことも
ある
やわらかいものを
守るため
南野薔子
47p.
このお歌における窓というものは単なる建具ではなく、外界や他者との接点の比喩のように感じられた。筆者も昔、心を閉ざしてひきこもりのような状態だったことがあるが、安全な場所で弱い自分を守り、力を蓄えるために必要な時間だったと今では思える。とても説得力のあるお歌だと思う。当月号の他の作者のお歌も「窓」をテーマにしたものであった。未読の方はぜひそちらも読んでみてほしい。
悪い土壌ならば
こんなにも
イロトリドリの感情を
咲かせることは
ないと思うのです
涼風
49p.
「土壌」が何のことかは明言されていないが、何となく五行歌界隈そのものを指しているように感じられた。むしろそうであってほしい、という希望的な読みかもしれない。先日の全国大会でも実感したが、全国各地で多種多様の五行歌人がまさに色とりどりなお歌を詠み続けている。語り掛けるような文体も魅力的で、読んでいて嬉しくなるお歌だった。
ごろん
寝返りうてば
目玉がおもい
ごろん
ごろん
芳川未朋
78p.
寝返りをうった時に眼球の重さを感じたという、リアルな身体感覚が感じられるお歌。「ごろん」のリフレインも面白い。一行目のごろんは寝返りをうった様子を表し、四、五行目のごろんは目玉が揺れている様を表しているのだと推測した。
痛み
悲しみ
病
生き抜く時は
涙に守られて
三咲 青
144p.
特集「東6棟 消化器外科」より。作者の入院・闘病生活を基に書かれた一連の作品の中でも冒頭のこのお歌に惹かれた。涙は弱気の象徴であるかのように言われることもあるが、自分を守ってくれているものと捉えられる作者の感性が素敵だと感じた。
「ウソはダメ」
なんてウソだ
みんな
だましだまし
生きてる
のぶし
148p.
どうしようもなく惹かれ、何度もうんうんと頷いてしまったお歌。生きてゆくことは本当にこの歌の通りだと感じる。みんなままならない現実とどうにか折り合いを付けて、他人なり自分なりを騙しながら、誤魔化しながら、生きているんだと思う。
(了)
雑誌『五行歌』2024年11月号 お気に入り五行歌
強いない誘わない仄(ほのめ)かさない此処にいるだけだよと磁器が言う山宮孝順20p.
昭和二年読み取れるのはそれだけの稚児地蔵今朝はいもうとに似ている蘭 洋子56p.
「あの日」という一点で終わらない。原爆とは深く永いゆうゆう126p.
目覚めれば凪あ、私覚悟を決めたんだ宇佐美友見151p.
はんぶんこして小さい方を食べるのが愛工藤由祐223p.
雑誌『五行歌』2024年10月号 お気に入り五行歌
どうも、ひげっちです。
先週の第34回五行歌全国大会in大阪に参加して来ました! お久しぶりの方、いつもの方、初対面の方にお目にかかれて大変嬉しかったです!! 歌について真剣に和やかに語り合える仲間が全国にいるというのは、本当に心強く楽しく有難いことだなあ、と思いました。大会の準備・運営に携わった方々、小歌会でご一緒した方々、お会いできた方々にお礼申し上げます。ありがとうございました!! それでは、2024年10月号から、私の気に入った五首をご紹介します。
下手くそなアルバイトに思わず演技指導するお化け屋敷よしだ野々6p.
いいねがいいなに変わる瞬間(とき)からひもじくなる心往く春のみどり86p.
叱らないことでしか褒められないそんな人のまま父親をやり抜いた国東蒋午87p.
命って生まれる時もとじる時も人の心をひとつにしてくれる町田道子121p.
その昔母の掌(て)は熱さまシートでも咳止めシールでもあったゑ寿155p.