ひげっちが好むものごと。

詩歌とボドゲを中心に書きたいことを書きます。

雑誌『五行歌』2020年7月号 お気に入り五行歌

 どうも、ひげっちです。

 

 前回の更新からずいぶん間が空いてしまいました。この間、ひげっちは勤めていた職場を退職したり、オンライン短歌会に参加したり、ごいたオンラインしたり、枡野浩一さんの著書を読みあさったり、人生最高体重を記録して慌ててダイエットを始めたりしていました。

 

 私に職が無いのも、金が無いのも、スマートな身体が無いのも、全部コロナの所為だ。

 

 と、現実逃避はこれくらいにして、雑誌『五行歌』2020年7月号のお気に入り作品をご紹介します。

 

 

話をする
かみ合っても
かみ合わなくても
楽しい
 
塚田三郎
22p.
 「わかる!」と大声で叫びたくなるようなお歌。好きなことの話をするのは楽しい。相手と会話がかみ合えばもちろんのこと、かみ合わなくても、相手の自分の違いなどが分かったりして、それなりの楽しみがあるものだ。この歌を読んで、歌会と歌会の二次会が恋しくなった。コロナ禍が落ち着いたら、大いに五行歌の話がしたい。
 
 
 
昔は良かった
と言える
過去なんか無い
いつだって
手ぶらの旅は続く
 
金沢詩乃
51p.
 振り返って郷愁に浸るような過去をハナから持っていないという力強い宣言。作者は女性であるので適切な表現ではないかもしれないが、とても「男前な」お歌であると思う。手ぶらであるというとは、身軽でもあり、その手にまだ何かを掴む可能性を秘めているということでもあろう。旅の行く末に希望があることを願う。
 
 
 
少年よ
孤独なら
自立をしたということだ
大人たちよ 孤独なら
みんな仲間ということだ
 
三隅美奈子
73p.
 「孤独」が少年にとっては成長の証であり、大人たちにとっては連帯の条件であるという。「孤独」をそういうものと捉えている作者の感性がとても良いと感じた。前に歌会でとある方に言われたことがあるのは、「孤立」は一つの状況であり避けるべきものであるかもしれないが、「孤独」はもっと個人的なものであり、共存すべきものである、ということ。孤独と向き合い、受け入れて、それと共に生きてこそ一人前ということだろう。
 
 
 
定期試験の
平均点
言い換えれば
教え方の
点数
 
島田正美
82p.
 視点を変えることにより、面白い歌が生まれる好例だと思う。試験の点数というのは、生徒個々人の努力の結果であると思われがちだが、教師の目線で見れば、自身の授業のわかりやすさの指標でもあるだろう。努力が求められるのは双方とも同じであり、授業というものは決して一方通行なものではないのだ(中には一方通行な授業もあるかもしれないが)。学生時代にこういったことに気付けるような心の余裕が欲しかったな、と思う。
 
 
 
何を見ながら
生きてゆくのか
そこを
間違えなければ
たぶん大丈夫だ
 
川原ゆう
136p.
 どなたかに呼びかけているような文体に惹かれた。最近、「見る」ということの持つ力は実は凄いのではないか、と考える。「百聞は一見にしかず」という諺もあるとおり、「見る」ということは、他人からの伝聞や文字による伝達よりもはるかに生々しい、リアルな情報をインプットすることができる。野球選手になりたい少年は一流選手のプレイを見たがるだろうし、落語家になりたい少年は寄席に行きたがるだろうし、ノーベル賞を取りたい少年はノーベル賞受賞者がいる大学に入りたがるだろう。「何を見るか」の選択は、実は自分の将来や目標の選択に他ならない。見たいものを見て、なりたいものになる。シンプルで大事なことに気付かせてくれたお歌だ。
 
 
 
「元気」を断つ
「人生」を捨てる
「宇宙」から離れる
これでまた
少し笑える
 
山川 進
198p.
 1~3行目に「断捨離」という言葉が隠れている。何を、断ち、捨て、何から離れるのかの選択が実にユニークだ。まず、いきなり「元気」を断つ、という。それを断つなんてとんでもない!とツッコミが入りそうだ。某プロレスラーではないが、「元気があれば何でもできる!」のではなかったか。困惑しているうちに、次は「人生」を捨てるという。えー!ダメダメ!「人生捨てたもんじゃない」が座右の銘である方だって居るだろうに……。とどめは、「宇宙」から離れる、という。未だかつてこの地球上に産まれ落ちた生命で、宇宙から離れて存在し得たものがあっただろうか……。と、銀河系レベルの断捨離について想いを馳せていると、4、5行目のこの締めくくり方である。作者にとっての断捨離は、常識や先入観、世間一般で良いとされているもの、当たり前とされているものから自由になることを意味しているのだろうか。実に面白くて奥深い。傑作だと思う。
 
 
 
強いリモコンが
あれば
早送りして
何事も無かったように
再生したい
 
小鳥遊 雅
272p.
 もし人生が録画されたテレビ番組なら、コロナ禍の現在は退屈すぎて早送りしたいほどの毎日だということだろうか。「強いリモコン」という言葉が絶妙だ。あるはずのない、ドラえもんひみつ道具みたいなリモコンなのだろうが、ここに説明的すぎる言葉を持ってくると、変に小難しくなってしまって、お歌の訴求力を削ぐことになりかねない。お歌の持つメッセージには大いに共感する。コロナ禍の終わった未来まで一気にワープしたいと願いながら、毎日マスクをして、手を洗い、うがいをして早寝早起きをしている。強いリモコンが心の底から欲しい。
 
 
(了)